それは珍しく関東平野にも雪が降った日の事だった。
ピンポーン
玄関のチャイムがなったので出てみると、そこにいたのは、くたびれた姿の見慣れない製麺機だった。
「すみません、旅の途中なのですが、よろしければ一晩泊めていただけないでしょうか。」
「どうぞどうぞ、おあがりください。さぞ寒かったでしょう。」
私はその製麺機を家に招き入れることにした。
我が家に住む3人の小野式製麺機とは、だいぶ姿が違うようである。
「申し遅れました、私は田中式製麺機と申します。」
「田中さんですか。その(ウ)のマークは?」
「残念ながら私には記憶も説明書もなく、なにもわからないのですが、人からは『ウドンのウ』ではないか、なんていわれております。」
何事かと部屋の奥から、小野式製麺機がやってきた。
「…あんた、でかいな!」
なるほど、比べてみると小野式製麺機1号型両刃型の製麺機に比べると、この田中式製麺機は一回り大きい。ヘビー級だ。
これが田中式では標準サイズなのか、あるいは小野式でいうところの、2号型、あるいは3号型の大型種なのだろうか。
「なにはともあれ、さぞやお疲れでしょう。さあさあ、このシャリバナーレで体をお拭きなさい。」
「さあ、仕上げはこれだ。あなたは製麺機なんだから、最後はこの生地で製麺をして汚れを取りましょう。」
「え、いいんですか!ああ、懐かしい。これは強力粉100%ですね。」
「さすがは田中さんだ。汚れても生粋の製麺機ですね。」
「田中さん、なかなかの切れ味じゃないか。まだまだ現役だね!」
「いや、わたしなんてもう鉄くずですよ。」
「馬鹿いうんじゃない。よかったら、うちで暮らすかい?いい生活はできないかもしれないけれど。」
「え、いいんですか!」
こうして、我が家にもう一台の製麺機がやってきたのであった。